6/10(土)サイエンスカフェ「2023年、浜通りの今」の開催お知らせ
●3年ぶりのサイエンスカフェ活動として、今回はオンライン形式で開催する運びになりました。今回はみけねこサイエンスプロジェクトの一環で物理学関係のサイエンスカフェを開催したりKEK(高エネルギー加速器研究機構)協力研究員として、福島に関わり続けた泉田賢一先生に福島第一原発事故後の浜通りの現状と科学に関するテーマでお話して頂きます。文系、理系関わらず興味ある方は、是非お気軽にご参加ください。
参加申込は下記のPeatixから申込み手続きをよろしくお願いします。今回はzoom上で行うオンライン形式の無料のイベントになります。途中参加でも大丈夫なので興味ある方はどうぞお気軽にご参加ください。
↓参加申し込みはこちらのPeatixのページでお願いします。
https://inakafewhite1.peatix.com/view
※当日のボランティアに協力して頂ける方も募集しています、詳細はブログ右上の連絡先、メールアドレスからお願いします。
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●開催日:6/10(土) 午後7:00~8:30(延長時の場合、午後9:00まで)
●定員:オンラインイベントですが、30名ほどを予定しています。
●参加費:無料
●講師:泉田賢一先生(みけねこサイエンスプロジェクト)
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サイエンスカフェ終了後、午後8:40(予定)からは引き続きオンラインで二次会兼懇親会を行います。二次会では軽いお食事やお酒などを持ち込んでの参加もOKです。
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6/10(土)サイエンスカフェ「2023年、浜通りの今」のレポート
6/10(土)にzoom上で「2023年、浜通りの今」を開催しました。今回初のオンラインイベントでしたが、約10名ほど参加者の皆さんが集まりました。最初に、講師の泉田賢一先生に自己紹介して頂きました。
https://drive.google.com/file/d/11vYqJ2RCyQYdIAvi7FDWR7no9Qxtnkwy/view?usp=drive_link
●富岡町という場所に住んでます。SCと書いて、サイエンスコミュニケーターとサイエンスコンテンツクリエーターと呼んでいます。元々は高エネルギー加速器研究機構の所属でしたが、7年前から福島県で今住んでいます。震災に見舞われた方とは違うけれどもどこまでお伝えできるかわかりませんが、放射線には近いところにいてサイエンスカフェを含めた科学コミュニケーション、情報共有をやってきました。
●なぜこっちにきたのか?
いくつか理由はあるのですが、野尻さんとかが活躍されていて(博論の審査員だった)現地入りできていなかったのが心残りであった。他で就職が決まっていたが、コミュニケーションで何かお役に立てればと思って入りました。

●福島の環境再生現状について(放射線汚染の状況のマップ)
面的除染により、帰還困難区域以外は概ね完了しました。マップを見ていただくと概ね白くなってきて、除染によってだいぶ放射線量が下がってきている。避難指示区域も小さくなっている。避難指示区域が県の面積の約12%から約2.2%に縮小し、住めるところもだいぶ増えました。
●避難指示区域等は今どうなっているのか?
インフラは整備されつつあります。常磐自動車道とか電車は通れますし、避難指示区域でも通れる。小名浜港が再開したり、インフラが復活してきた。各街に商業施設もできてきている。都市部の方も同じだと思うが、大都市から離れたときに住んでいて、ちょっと離れたところに洋服を買いに行くという環境である。
●エンタメ関係は不便 お買い物は不便
エンタメ関係は地方事情もあるかもしれません。元々は映画館があり、ゲームセンターもかつてはあったが無くなってしまった。セブンイレブンなどのコンビニは24時間営業できない。ただ、その他の地方事情もそれぞれの地方による所が大きいのでは?
●お楽しみ大抽選会・・・富岡町の残念なこと
ヨークベニマル歳末特別企画で「実施店 新富岡店を除く」の但し書きがある。
●ほぼ同じ場所の街の様子
震災前(お祭りの様子)、2017年10月(避難指示解除の半年後)、2021年8月(建物が減って更地になっている)のグーグルストリートビュー画像の比較。引っ越した家の近くに元スーパーと元病院があったが、いまは更地になっている。震災後は人が減少、建物の解体が進み、元の賑わいを取り戻せていない所が多い。避難解除されて以降はどうか?
●避難関係は難しい
避難者の現在の居住地…富岡町に避難者の全体約10%ほど避難している。避難先は映画館があるといったいわき市、福島市、郡山市あたり。また県外で25%くらい。すでに戻らないと決めている方は住民の約半数、戻る意志のある方が20%。私は元の住民でないので代弁はできないが、アンケートを紹介します。
●富岡町への帰還を決めた理由…気持ちが安らぐこと、医療機関の開院、拡充などの理由が大きい。
高齢者が戻られている。帰還する場合に必要な施策としては医療施設の充実、商業施設の充実など。放射線についての不安や心配は上からは6番目。放射線量が気になると考えられがちだがそうでもない。
戻らないと決めた方、判断がつかない方は既に生活基盤ができているという理由が大きい。避難先の方が生活利便性が高い。避難指示解除まで6年間かかった。当時小学生だった子どもが小学校を卒業してしまう年頃になる。
避難先で東電の補償金で家を建てたり、仕事に就いているケースもある。戻るのは難しいという状況もあり、行政は移住をどうするかについて軸点を置いている。
駅前に黒い袋が並んでいる景色があったが、それがなくなってお祭りで帰ってきた方が「これが無くなったなら帰ってきてもいいかな」という声も聞いて、環境省としてやっていることが少しはお役になったのかなと思っている。
−−−休憩中
・楢葉町の近況‥楢葉中学校では先進的な取組をしていて、企業と商品開発している。
(質問)楢葉に住んで良かったところは?
→私が住んでいるのは富岡ですが、楢葉もよくいきます。ご飯屋さんがおいしい。海が近いのでお魚がおいしい。また天ぷらのレベルが高い気がする。以前神保町などが職場近かったので行っていたが、それと同等かそれ以上においしい町のそば屋さんが出てる。町内のお菓子屋さんもレベルが高い。自然が多いのも良い。職場からも山がきれいに見える、満足している。

●一方そのころ・・・
除染とは別に汚染された廃棄物がある。8000Bq/Kg以下の物。
左側・・・町の廃棄物(焼却施設、下水の泥、屋外にあった農業系の稲わらなど)が汚染されていた。
右側・・・避難指示区域で出たがれき。
宮城県の津波のがれきが汚染されているか議論があったと思うが、もちろん避難指示区域も地震や津波の被害を受けている。パトカーも被害にあっている。肝心の物が残ってしまった。

●放射線物質に汚染された廃棄物の処理(除染以外で出たもの)
廃棄物をどうするかを半年くらい議論して、基準値を決定し法律を作った。その枠組みの中で処理されている。ベクレル/キログラムは話を簡単にするために汚染度合いの判断にしようする単位です。
一般の方に超える値を持つ者は環境省で責任を持って処分する。もっとも高いものは対応が色々と必要なので環境省責任で事業を行うために、一旦保留して貯蔵して県外で最終処分する。
エコテックという産業廃棄物場を国有化して、富岡町に特定廃棄物埋立処分施設を作った。他に同じような施設として大熊町にクリーンセンターふたば等がある。
(質問)特定廃棄物埋立処分施設というのは中間貯蔵施設?
→違います。よく聞かれます。居住地のひとでも知らないことが多い。
クリーンセンターふたばが6月にオープンしたが、福島の地方紙には掲載されていなかった。NHKと全国紙1社だけだった。昔、小泉元首相が福島に来て、中間貯蔵施設と福島第一原発と特定廃棄物埋め立て処分場を見たが、マスコミはなぜか特定廃棄物埋め立て処分場を取り上げなかった。
●処分対策を考える前に・・・放射線の基礎知識

放射線は体に当たってもまず無傷。ただし、とっても運が悪いとがんを発生させる。累計100mSvという量を受けると、胃がんで亡くなる確率が0.5%上昇すると言われている(影響が小さすぎてよくわからず、食生活の習慣変化で変わるレベル)。

●放射性物質の処分で気にしなくていけないことは?
まずは1カ所に閉じ込める。他のダイオキシンや水銀とかの有害な物質と同じで、一般の廃棄物と同じ考えて良い。ただ、放射線を出してくるので防ぐ手当をしている。

●徹底した管理
輸送車両をGPSで1台ずつ管理している。スピード違反もチェックして通れるルートも制限してなるべく事故が起きないようにしている。さぼれないですね?といわれるが、さぼれません。地域の目が厳しいので、スピード違反があると住民から環境省にたれ込みがある。その対策が機能しているか、放射能が漏れていないか、汚染されていないかを監視、確認している。


●放射性物質(セシウム)の場外漏洩を防ぐ
袋ごと埋め立てをする(外に飛び散らないようにする)。ゼオライトという吸着剤と併せて埋め立てしている。次に来るのが地下水汚染の問題、溶け出しやすい者はセメントで固形化している。内側の水は確実に水処理をし、外の地下水も入ってこないし、中の水も出ていかないということをしている。なおかつ、シートに破れ検知システムというのがついていて、破れていないかを確認している。覆土で遮ると廃棄物の放射線は1/500に減少する。
(質問)廃棄物の袋の素材は何でしょうか?電磁波を防ぐ金属の蒸着でしょうか?
→分厚いレジャーシートと考えてください。驚かれるかもしれないですが、非常に頑丈で土中だと紫外線で傷まない。きちんとしており、飛び散りを防ぐことができるようになっている。
●放射線を防ぐ
おまけ話になりますが、今回は主な放射性物質がセシウムである事を想定して半減期30年ということにしている。長期的に無力化も狙っている。

●で、対策結果は?
埋立処分で空間線量率は増えずに自然に減っている。水関係はセシウム検出されていないし、地下水・井戸水も念のためチェックしているが大丈夫。驚かれるかもしれないが、場内作業員の被ばく量1msv以下。一般の方の上限を下回っているくらいです。土をかけているのが効いているのかなと思う。これは環境省の見解ではなく、個人的な意見だがだいぶ低く安全に処分できているのかなと思います。
(意見)廃棄物の袋はすごいですね。特別なものかと思っていた。
→出ているものに対しては、通常のもので対応できる。今回の量くらいであったら、対応できる。
(質問)よく浜通りにいくので除染土の袋を見ていたが,ビニールハウスの素材のようなものだった。
→メーカーさんに聞くと、紫外線で4~5年らしいので私有地とかは破れているものがある。
(質問)半減期の想定は、セシウムでしょうか?また、日本の原発では、セシウム以外も使われていますか?
→セシウムです。他のものはウランとかプルトニウムもあるので、半減期が長いものがある。幸い今回の事故ではそうしたものは原発の外には出てこなかった。

●除染で取り除いた土
ここからは問題提起としてお話したい。除染とか中間施設の話しをしたい。セシウムが土から離れないという問題があるが、土をはいたり、ほこりや側溝の泥などをとっている。ほぼ全ての学校は土の剥ぎ取りをした。その量はあまりにも莫大であった。木とかのものもあり、処分が大変なので中間貯蔵施設に置いている。最終的に、30年以内に福島県外で処分することになっている。
●どの位、莫大な量があるかというと
福島県内で全部埋めようとすると、現実問題無理だと思う。私の意見ですが…。中間貯蔵施設に運ぶだけでも大変だった。福島県内で処分できますか?というと難しい。1日に約2000~3000台のトラックで運搬するほどの量がある。

●最終処分量を減らすための再生利用
50cm覆土すれば問題がないことがわかる。三春町でお花を植えたりして実証実験されている。県外でも実施すべく説明会が行われている。

●みなさんに投げかけたいこと
①浜通りや福島県の問題だけでは無くなっている。県外の力を借りないと無理じゃないかという個人的な意見です。現在使用している場所を最終処分にすればよいではないかという声も来館者から言う方がいるのもわかる。膨大な土地のなかには国有地もあるが、8割が民有地であり、借りている土地も多い。除染で取り除いた土を保管している中間貯蔵施設は、福島第一原発をぐるっと取り囲んでいる。
東電の土地に埋めればいいのではないかというお話もあるが、福島原発に場所はないし、その他の場所だとその地元の地域の方がいると思う。浜の復興を考えたときに皆さんの力が必要だと思う。
②福島県外における取組
放射線物質で被ばくされた物質が宮城県・茨城県・栃木県・群馬県・千葉県にもあり、それは県内で処分しなければならないが、全て取り組みが止まっています。千葉県では議会で議決もあったりするが、進んでいない。陰で実はこういう問題がある。
●最後に・・・
課題も多いけど頑張っているのでそれを見てほしい。リプルン福島にもいますので、ぜひ来てください。

質義応答
○ラーメンが気になっている
はまどりというラーメン屋さんがおすすめです。ノーマルと味噌と塩がいいです。
www.torifuji.co.jp/hamadori/
○交通機関の話があったが、移動に車は必須?
そうですね。車がないと移動は難しいです。レンタカーを借りるなどがいいかも。
○常磐道でも磐越道でも、放射性廃棄物関係の輸送トラックが走っていると速度はほぼ70kmを遵守している。
○放射線物質を土に埋めた際、雨水などで外部に流れ出す可能性は少ないのでしょうか?
外に漏れ出す可能性は少ないと考えているが、雨水を入れたくないので使っていないところはシートをかぶせている。外に出さないことを徹底的に考えている。
○泉田さんが物理の道に進んだのはなぜでしょうか?
素粒子っていう分野が夢があふれる分野で、重さや重力がなんであるの?というのがサイエンスフィクションが好きだった。物理が好きだった。これもドン引きされるのだが、数学の式に落とし込んで予測ができるといったことが好きでした。良く言っています。ものぐさな学問だと思ってて、実際やらなくても数学で予測出来るということが性に合っている。
○KEK(高エネルギー加速器研究機構)は、がっつりやっているような気がするが・・・
→理論のひとは数式でやっていて、実験のひとは実験をやっているという感じです。
○飯舘村在住です。泉田さんのお話の中にもありましたが、再生土壌の実証現場は見学できますので、ぜひ見学して我がこととして考えていただけたらと思います。中間彫像施設も見学できますね。どちらも、中間貯蔵工事情報センターです。
josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/recycling/project_iitate/
○また、最終処分については、今回の事故を風化させない為にも、各都道府県での残土の受け入れとそれを使った道路作りのような仕組みが出来ると良いと思いました。
→科学コミュニケーターが動いていけるといい部分ではないかと私見では思っている。所沢、新宿では住民説明では苦戦しているとも聞いている。
参加者の皆様、お手伝いしてくださった皆様、またお話して下さった泉田先生、どうもありがとうございました。
https://drive.google.com/file/d/11vYqJ2RCyQYdIAvi7FDWR7no9Qxtnkwy/view?usp=drive_link
●富岡町という場所に住んでます。SCと書いて、サイエンスコミュニケーターとサイエンスコンテンツクリエーターと呼んでいます。元々は高エネルギー加速器研究機構の所属でしたが、7年前から福島県で今住んでいます。震災に見舞われた方とは違うけれどもどこまでお伝えできるかわかりませんが、放射線には近いところにいてサイエンスカフェを含めた科学コミュニケーション、情報共有をやってきました。
●なぜこっちにきたのか?
いくつか理由はあるのですが、野尻さんとかが活躍されていて(博論の審査員だった)現地入りできていなかったのが心残りであった。他で就職が決まっていたが、コミュニケーションで何かお役に立てればと思って入りました。

●福島の環境再生現状について(放射線汚染の状況のマップ)
面的除染により、帰還困難区域以外は概ね完了しました。マップを見ていただくと概ね白くなってきて、除染によってだいぶ放射線量が下がってきている。避難指示区域も小さくなっている。避難指示区域が県の面積の約12%から約2.2%に縮小し、住めるところもだいぶ増えました。
●避難指示区域等は今どうなっているのか?
インフラは整備されつつあります。常磐自動車道とか電車は通れますし、避難指示区域でも通れる。小名浜港が再開したり、インフラが復活してきた。各街に商業施設もできてきている。都市部の方も同じだと思うが、大都市から離れたときに住んでいて、ちょっと離れたところに洋服を買いに行くという環境である。
●エンタメ関係は不便 お買い物は不便
エンタメ関係は地方事情もあるかもしれません。元々は映画館があり、ゲームセンターもかつてはあったが無くなってしまった。セブンイレブンなどのコンビニは24時間営業できない。ただ、その他の地方事情もそれぞれの地方による所が大きいのでは?
●お楽しみ大抽選会・・・富岡町の残念なこと
ヨークベニマル歳末特別企画で「実施店 新富岡店を除く」の但し書きがある。
●ほぼ同じ場所の街の様子
震災前(お祭りの様子)、2017年10月(避難指示解除の半年後)、2021年8月(建物が減って更地になっている)のグーグルストリートビュー画像の比較。引っ越した家の近くに元スーパーと元病院があったが、いまは更地になっている。震災後は人が減少、建物の解体が進み、元の賑わいを取り戻せていない所が多い。避難解除されて以降はどうか?
●避難関係は難しい
避難者の現在の居住地…富岡町に避難者の全体約10%ほど避難している。避難先は映画館があるといったいわき市、福島市、郡山市あたり。また県外で25%くらい。すでに戻らないと決めている方は住民の約半数、戻る意志のある方が20%。私は元の住民でないので代弁はできないが、アンケートを紹介します。
●富岡町への帰還を決めた理由…気持ちが安らぐこと、医療機関の開院、拡充などの理由が大きい。
高齢者が戻られている。帰還する場合に必要な施策としては医療施設の充実、商業施設の充実など。放射線についての不安や心配は上からは6番目。放射線量が気になると考えられがちだがそうでもない。
戻らないと決めた方、判断がつかない方は既に生活基盤ができているという理由が大きい。避難先の方が生活利便性が高い。避難指示解除まで6年間かかった。当時小学生だった子どもが小学校を卒業してしまう年頃になる。
避難先で東電の補償金で家を建てたり、仕事に就いているケースもある。戻るのは難しいという状況もあり、行政は移住をどうするかについて軸点を置いている。
駅前に黒い袋が並んでいる景色があったが、それがなくなってお祭りで帰ってきた方が「これが無くなったなら帰ってきてもいいかな」という声も聞いて、環境省としてやっていることが少しはお役になったのかなと思っている。
−−−休憩中
・楢葉町の近況‥楢葉中学校では先進的な取組をしていて、企業と商品開発している。
(質問)楢葉に住んで良かったところは?
→私が住んでいるのは富岡ですが、楢葉もよくいきます。ご飯屋さんがおいしい。海が近いのでお魚がおいしい。また天ぷらのレベルが高い気がする。以前神保町などが職場近かったので行っていたが、それと同等かそれ以上においしい町のそば屋さんが出てる。町内のお菓子屋さんもレベルが高い。自然が多いのも良い。職場からも山がきれいに見える、満足している。

●一方そのころ・・・
除染とは別に汚染された廃棄物がある。8000Bq/Kg以下の物。
左側・・・町の廃棄物(焼却施設、下水の泥、屋外にあった農業系の稲わらなど)が汚染されていた。
右側・・・避難指示区域で出たがれき。
宮城県の津波のがれきが汚染されているか議論があったと思うが、もちろん避難指示区域も地震や津波の被害を受けている。パトカーも被害にあっている。肝心の物が残ってしまった。

●放射線物質に汚染された廃棄物の処理(除染以外で出たもの)
廃棄物をどうするかを半年くらい議論して、基準値を決定し法律を作った。その枠組みの中で処理されている。ベクレル/キログラムは話を簡単にするために汚染度合いの判断にしようする単位です。
一般の方に超える値を持つ者は環境省で責任を持って処分する。もっとも高いものは対応が色々と必要なので環境省責任で事業を行うために、一旦保留して貯蔵して県外で最終処分する。
エコテックという産業廃棄物場を国有化して、富岡町に特定廃棄物埋立処分施設を作った。他に同じような施設として大熊町にクリーンセンターふたば等がある。
(質問)特定廃棄物埋立処分施設というのは中間貯蔵施設?
→違います。よく聞かれます。居住地のひとでも知らないことが多い。
クリーンセンターふたばが6月にオープンしたが、福島の地方紙には掲載されていなかった。NHKと全国紙1社だけだった。昔、小泉元首相が福島に来て、中間貯蔵施設と福島第一原発と特定廃棄物埋め立て処分場を見たが、マスコミはなぜか特定廃棄物埋め立て処分場を取り上げなかった。
●処分対策を考える前に・・・放射線の基礎知識

放射線は体に当たってもまず無傷。ただし、とっても運が悪いとがんを発生させる。累計100mSvという量を受けると、胃がんで亡くなる確率が0.5%上昇すると言われている(影響が小さすぎてよくわからず、食生活の習慣変化で変わるレベル)。

●放射性物質の処分で気にしなくていけないことは?
まずは1カ所に閉じ込める。他のダイオキシンや水銀とかの有害な物質と同じで、一般の廃棄物と同じ考えて良い。ただ、放射線を出してくるので防ぐ手当をしている。

●徹底した管理
輸送車両をGPSで1台ずつ管理している。スピード違反もチェックして通れるルートも制限してなるべく事故が起きないようにしている。さぼれないですね?といわれるが、さぼれません。地域の目が厳しいので、スピード違反があると住民から環境省にたれ込みがある。その対策が機能しているか、放射能が漏れていないか、汚染されていないかを監視、確認している。


●放射性物質(セシウム)の場外漏洩を防ぐ
袋ごと埋め立てをする(外に飛び散らないようにする)。ゼオライトという吸着剤と併せて埋め立てしている。次に来るのが地下水汚染の問題、溶け出しやすい者はセメントで固形化している。内側の水は確実に水処理をし、外の地下水も入ってこないし、中の水も出ていかないということをしている。なおかつ、シートに破れ検知システムというのがついていて、破れていないかを確認している。覆土で遮ると廃棄物の放射線は1/500に減少する。
(質問)廃棄物の袋の素材は何でしょうか?電磁波を防ぐ金属の蒸着でしょうか?
→分厚いレジャーシートと考えてください。驚かれるかもしれないですが、非常に頑丈で土中だと紫外線で傷まない。きちんとしており、飛び散りを防ぐことができるようになっている。
●放射線を防ぐ
おまけ話になりますが、今回は主な放射性物質がセシウムである事を想定して半減期30年ということにしている。長期的に無力化も狙っている。

●で、対策結果は?
埋立処分で空間線量率は増えずに自然に減っている。水関係はセシウム検出されていないし、地下水・井戸水も念のためチェックしているが大丈夫。驚かれるかもしれないが、場内作業員の被ばく量1msv以下。一般の方の上限を下回っているくらいです。土をかけているのが効いているのかなと思う。これは環境省の見解ではなく、個人的な意見だがだいぶ低く安全に処分できているのかなと思います。
(意見)廃棄物の袋はすごいですね。特別なものかと思っていた。
→出ているものに対しては、通常のもので対応できる。今回の量くらいであったら、対応できる。
(質問)よく浜通りにいくので除染土の袋を見ていたが,ビニールハウスの素材のようなものだった。
→メーカーさんに聞くと、紫外線で4~5年らしいので私有地とかは破れているものがある。
(質問)半減期の想定は、セシウムでしょうか?また、日本の原発では、セシウム以外も使われていますか?
→セシウムです。他のものはウランとかプルトニウムもあるので、半減期が長いものがある。幸い今回の事故ではそうしたものは原発の外には出てこなかった。

●除染で取り除いた土
ここからは問題提起としてお話したい。除染とか中間施設の話しをしたい。セシウムが土から離れないという問題があるが、土をはいたり、ほこりや側溝の泥などをとっている。ほぼ全ての学校は土の剥ぎ取りをした。その量はあまりにも莫大であった。木とかのものもあり、処分が大変なので中間貯蔵施設に置いている。最終的に、30年以内に福島県外で処分することになっている。
●どの位、莫大な量があるかというと
福島県内で全部埋めようとすると、現実問題無理だと思う。私の意見ですが…。中間貯蔵施設に運ぶだけでも大変だった。福島県内で処分できますか?というと難しい。1日に約2000~3000台のトラックで運搬するほどの量がある。

●最終処分量を減らすための再生利用
50cm覆土すれば問題がないことがわかる。三春町でお花を植えたりして実証実験されている。県外でも実施すべく説明会が行われている。

●みなさんに投げかけたいこと
①浜通りや福島県の問題だけでは無くなっている。県外の力を借りないと無理じゃないかという個人的な意見です。現在使用している場所を最終処分にすればよいではないかという声も来館者から言う方がいるのもわかる。膨大な土地のなかには国有地もあるが、8割が民有地であり、借りている土地も多い。除染で取り除いた土を保管している中間貯蔵施設は、福島第一原発をぐるっと取り囲んでいる。
東電の土地に埋めればいいのではないかというお話もあるが、福島原発に場所はないし、その他の場所だとその地元の地域の方がいると思う。浜の復興を考えたときに皆さんの力が必要だと思う。
②福島県外における取組
放射線物質で被ばくされた物質が宮城県・茨城県・栃木県・群馬県・千葉県にもあり、それは県内で処分しなければならないが、全て取り組みが止まっています。千葉県では議会で議決もあったりするが、進んでいない。陰で実はこういう問題がある。
●最後に・・・
課題も多いけど頑張っているのでそれを見てほしい。リプルン福島にもいますので、ぜひ来てください。

質義応答
○ラーメンが気になっている
はまどりというラーメン屋さんがおすすめです。ノーマルと味噌と塩がいいです。
www.torifuji.co.jp/hamadori/
○交通機関の話があったが、移動に車は必須?
そうですね。車がないと移動は難しいです。レンタカーを借りるなどがいいかも。
○常磐道でも磐越道でも、放射性廃棄物関係の輸送トラックが走っていると速度はほぼ70kmを遵守している。
○放射線物質を土に埋めた際、雨水などで外部に流れ出す可能性は少ないのでしょうか?
外に漏れ出す可能性は少ないと考えているが、雨水を入れたくないので使っていないところはシートをかぶせている。外に出さないことを徹底的に考えている。
○泉田さんが物理の道に進んだのはなぜでしょうか?
素粒子っていう分野が夢があふれる分野で、重さや重力がなんであるの?というのがサイエンスフィクションが好きだった。物理が好きだった。これもドン引きされるのだが、数学の式に落とし込んで予測ができるといったことが好きでした。良く言っています。ものぐさな学問だと思ってて、実際やらなくても数学で予測出来るということが性に合っている。
○KEK(高エネルギー加速器研究機構)は、がっつりやっているような気がするが・・・
→理論のひとは数式でやっていて、実験のひとは実験をやっているという感じです。
○飯舘村在住です。泉田さんのお話の中にもありましたが、再生土壌の実証現場は見学できますので、ぜひ見学して我がこととして考えていただけたらと思います。中間彫像施設も見学できますね。どちらも、中間貯蔵工事情報センターです。
josen.env.go.jp/chukanchozou/facility/recycling/project_iitate/
○また、最終処分については、今回の事故を風化させない為にも、各都道府県での残土の受け入れとそれを使った道路作りのような仕組みが出来ると良いと思いました。
→科学コミュニケーターが動いていけるといい部分ではないかと私見では思っている。所沢、新宿では住民説明では苦戦しているとも聞いている。
参加者の皆様、お手伝いしてくださった皆様、またお話して下さった泉田先生、どうもありがとうございました。
2023/3/22サイエンス読書(初心者向け、中級者向け)
久しぶりの更新です。しばらくサイエンスカフェ活動が出来なくてすみません。今年中、また来年にはサイエンスカフェ活動を開催できればと思います。その時にはこちらで改めて告知させて頂きます。今回紹介するのは、初心者向け、中級者向けのサイエンス3冊です。ジャンルは福島に関する問題、農業の歴史、宇宙開発関係になります。

●服部美咲(2021)『東京電力福島第一原発事故から10年の知見 復興する福島の科学と論理』丸善出版(初心者向け、中級者向け)
www.amazon.co.jp/dp/462130626X
本書は福島第一原発事故の大きな問題「原発事故後の放射線被ばくの影響」「原発事故後の心の健康問題」「甲状腺検査と廃炉汚染水対策」の3章で主に構成されています。科学的根拠、医学的根拠を重んじた内容で、専門家のインタビュー、対談記事が掲載されています(以前に猪苗代サイエンスカフェでお話されていた早野龍五先生と、放射線影響研究所の丹波大貫先生の対談記事も載っています)。この本に興味ある方は、最初に著者の服部さんが書かれた「はじめに」「おわりに」をぜひ読んでほしいと思います。以下、福島県立医科大学教授の坪倉正治先生のインタビューが印象に残ったので引用させて頂きます。
ー「科学的な事実を知る」ことと「福島県での日常を安心して健やかに過ごす」ことをつなげるために、大切にしていることはありますか。
「相手のバックグラウンドを尊重する」ということです。科学的な事実を一方的に押し付けるのではなく、相手が何を想い、どのような日常を送り、何を大切にしているのかを、知ろうとすることを心掛けています。
もう一つ、「科学的なデータは、多かれ少なかれ誰かを傷つけるものだ」ということを忘れないでいようと思っています。もちろん、国や行政が政治的な方針を決める際には、科学的なデータは欠かせません。しかし、地域の住民にとっては必ずしもそうではないでしょう。
(中略)
ー坪倉先生は、南相馬市や相馬市をはじめ、県内の多くの地域で調査・研究をされてきました。今の「福島県の課題」とはなんでしょうか。
原発事故を俯瞰すれば、原発事故直後の三ヶ月間で最も多く人の命が失われました。特に、原発事故直後の短期的な避難によって亡くなった方が一番多かった事が分かっています。そして今は、長期的な避難によって、人と人とのつながりが失われてしまったために、住民の健康的な生活が損なわれたということが問題になっています。
例えば長期的な原発事故の影響を、「医学」という切り口で見れば「糖尿病にかかる人の増加」という事になりますし、「精神医学」という切り口で見れば「うつ病や自殺リスクの増加」という事にもなるでしょう。それぞれの分野によって異なる名前で呼ばれていますが、課題の本質は共通していると思います。
ーその課題は、政策にどのように反映されるべきでしょうか。
難しいことですが、少なくとも「解決法は関連性の中に見つけるべきだ」とは思います。例えば、若い人が避難した→そのまま避難先に移住した→高齢者が独居状態になった→移動手段がなくて孤立した→生活習慣が不健康になった→糖尿病が増加した、というように、いくつかの問題が一連の関連性をもっているとします。
ここで「糖尿病は食生活の乱れによる病気なので、食生活を見直すべきです」「移動手段がないのであれば、高齢者にタクシー券を配ります」と、単に問題の一つを切り出すだけでは、根本的な解決にはなりません。あるいは、「家族が揃えば高齢者の食生活が乱れないなら、家族全員が揃うようにしよう」という選択ができない事情を抱えた方々も大勢いらっしゃいます。
一つの問題を単純に切り出すのではなく、一連の関連性を保った上で、どのような解決法を見出せるのか。これは、福島県だけが抱える問題ではありません。これから社会が高齢化していく上で、国民全員が通る道です。福島県だけではなく、国民が皆でさまざまな立場から知恵を出し合わなければならないことだと思います。
●ルース・ドフリース(2016)『食糧と人類 飢餓を克服した大増産の文明史』日本経済新聞出版社(中級者向け)
www.amazon.co.jp/dp/B09153LYF7
人類が食べ物、食糧生産を増やしていった文明史、地球の地学、品種改良を含めた農業の発展の様子などを描いた壮大な本です。農作物を増やすのに欠かせない窒素、リンを人類はどの様にして肥料として手に入れていったのか?など様々なエピソードが載っています。現在の日本に住む私達は食べ物を手に入れるのに苦労するという事はあまりないですが、その食材ができる過程には非常に長い時間と歴史、手間がかかっている事が窺い知れる本です。
※殺虫剤であり農薬でもあるDDTの事も書かれていますが、「沈黙の春」で告発されたDDTは鳥類に対して有害である件に関しては他に批判の意見があるので、気になった方は調べてみて下さい。「沈黙の春」の批判は、「禍いの科学 正義が愚行に変わるとき」(著:ポール・A・オフィット)に詳しく書かれています。
本書内の「重大な一歩ー狩猟採集から農耕へ」では、小麦や稲の栽培など農業の起源に関して書かれている部分が興味深かったので、以下引用します。
小麦の親戚にあたる野草を見るかぎり、栽培に向いているようには思えない。食べられる種子の部分は小さく、風で簡単に散ってしまう。これでは大量に収穫するのは難しいだろう。おそらく、遠い昔のその(ヒト科の)人物は風でも飛ばされず茎についたままの種子に目を止めたのだろう。
これは人間にとって貴重な特徴だった。最初は手で、のちには鎌を使って種子を収穫した。風で飛ばない種子を繰り返し集めて植えていくうちに、風に強い種子ができる確率が高まった。他にも、種子が大きい、脱穀でもみがらが簡単に外れる、実る時期が同じなど、人間にとって都合のいい特徴を備えた種子が選ばれた。何千年という歳月をかけてヒトツブ小麦とエンマー小麦は進化して栽培種となったのだ。栽培時期と場所は人間がコントロールし、風まかせではなくなった。
同じような経過をたどって大麦、ヒヨコ豆、レンズ豆、エンドウ豆、亜麻、イチジク、デーツ(ナツメヤシの実)、そしてあまり広くは知られていないベッチ(マメ科ソラマメ属の総称)が栽培されるようになった。
のちに、人間は動物を繁殖させて家畜化し、野生種よりも飼いやすい羊、ヤギ、豚、牛をつくりだした。家畜は人間から与えられる餌で育った。飼い主は世話をし、餌を与え、天敵の脅威から守る代わりに家畜の肉、乳、労働力を利用した。人間が動植物の自然選択の舵を握ったのである。祖先は自分たちに都合よく改良を重ね、動植物をそれぞれ栽培用・家畜用の品種に変えていった。これがけっきょく人間をも変える事になる。狩猟採取していた人びとは農耕と家畜の世話に転じた。これが農業のはじまりである。
●寺薗 淳也(2022)『宇宙開発の不都合な真実』彩図社(中級者向け)
www.amazon.co.jp/dp/4801306209
長年、宇宙開発に携わってきた寺薗淳也先生から見た宇宙開発のどちらかというと影の部分、問題を書いた本です。主に、宇宙開発によって増加した宇宙デブリ(ゴミ)問題や宇宙開発技術は軍事技術と表裏一体である事実、民間の宇宙ビジネスは本当にうまくいっているのか?という問題も含めて、日本と世界各国の現在の情勢を比較、俯瞰して解説されています。宇宙に興味を持っている、また携わりたい人達は、これからの宇宙開発に向けてどのような姿勢を持てばいいのか?という事に関して、寺薗先生は以下このように書かれています。気になった方はぜひ読んでみてください。
軍事、経済、国民感情、国と国との関係、そして技術開発の動向。これからの宇宙開発は、様々な要素が複雑に絡み合いながら進んでいく。国家同士による二項対立というような単純な図式に別れを告げ、他の産業と同じように、様々な要素に翻弄されながら一つの分野として確立していくことになる。
おそらく、この不安定で先が見通せない社会においては、「将来どうなるか」より「将来にどう備えるか」が重要だろう。将来に対して不安ばかりを抱えてオロオロするよりは、リスクを明確にし、それに対してできるだけの策を打つということが重要だ。そして、その明確化と対策実施のサイクルを可能な限りスピードアップしていくことも必要である。
ここまで読まれた方は、リスクの明確化なんてできるのかと思われるかもしれないが、近年は希望も見えてきた。宇宙開発のファンが、着実に増えているのだ。
(中略)
宇宙開発の「中の人」である私のような人間にとって、応援のメッセージは本当に励みになる。「はやぶさ」ミッションにおいて、タッチダウンのようなここぞという場面、あるいは探査機が行方不明になったりエンジンが故障したりといった危うい場面において、「頑張れ」「しっかり応援しています」といったメッセージがどれだけ心強かったことか。リスクが高い宇宙開発において、そのような応援団の存在は貴重であり本当にありがたい。
ありがたいからこそ、1つお願いがある。
ファンから一歩前へ踏み出して、サッカーでいうところのサポーターや、バスケットボールにおけるブースターのような存在になって欲しい。
以前別の著書で書いたことだが、そういったサポーターはすべてを無条件に受け入れたりはしない。だめなことはだめ、よくないことはよくないと主張する。そういった気持ちを持つからこそ、ひいきのチームはより強くなり、ファンの絆は深まる。愛するというのはそういう事ではないだろうか。
私が見る限り、日本でもそのような宇宙開発ファンは少しずつ、着実に増えているように思う。このようなサポーター、ブースターのようなつながりが日本全体に広がっていき、宇宙開発に身を投じている人達を支えるような存在になってくれると、私としてはうれしい限りだ。

●服部美咲(2021)『東京電力福島第一原発事故から10年の知見 復興する福島の科学と論理』丸善出版(初心者向け、中級者向け)
www.amazon.co.jp/dp/462130626X
本書は福島第一原発事故の大きな問題「原発事故後の放射線被ばくの影響」「原発事故後の心の健康問題」「甲状腺検査と廃炉汚染水対策」の3章で主に構成されています。科学的根拠、医学的根拠を重んじた内容で、専門家のインタビュー、対談記事が掲載されています(以前に猪苗代サイエンスカフェでお話されていた早野龍五先生と、放射線影響研究所の丹波大貫先生の対談記事も載っています)。この本に興味ある方は、最初に著者の服部さんが書かれた「はじめに」「おわりに」をぜひ読んでほしいと思います。以下、福島県立医科大学教授の坪倉正治先生のインタビューが印象に残ったので引用させて頂きます。
ー「科学的な事実を知る」ことと「福島県での日常を安心して健やかに過ごす」ことをつなげるために、大切にしていることはありますか。
「相手のバックグラウンドを尊重する」ということです。科学的な事実を一方的に押し付けるのではなく、相手が何を想い、どのような日常を送り、何を大切にしているのかを、知ろうとすることを心掛けています。
もう一つ、「科学的なデータは、多かれ少なかれ誰かを傷つけるものだ」ということを忘れないでいようと思っています。もちろん、国や行政が政治的な方針を決める際には、科学的なデータは欠かせません。しかし、地域の住民にとっては必ずしもそうではないでしょう。
(中略)
ー坪倉先生は、南相馬市や相馬市をはじめ、県内の多くの地域で調査・研究をされてきました。今の「福島県の課題」とはなんでしょうか。
原発事故を俯瞰すれば、原発事故直後の三ヶ月間で最も多く人の命が失われました。特に、原発事故直後の短期的な避難によって亡くなった方が一番多かった事が分かっています。そして今は、長期的な避難によって、人と人とのつながりが失われてしまったために、住民の健康的な生活が損なわれたということが問題になっています。
例えば長期的な原発事故の影響を、「医学」という切り口で見れば「糖尿病にかかる人の増加」という事になりますし、「精神医学」という切り口で見れば「うつ病や自殺リスクの増加」という事にもなるでしょう。それぞれの分野によって異なる名前で呼ばれていますが、課題の本質は共通していると思います。
ーその課題は、政策にどのように反映されるべきでしょうか。
難しいことですが、少なくとも「解決法は関連性の中に見つけるべきだ」とは思います。例えば、若い人が避難した→そのまま避難先に移住した→高齢者が独居状態になった→移動手段がなくて孤立した→生活習慣が不健康になった→糖尿病が増加した、というように、いくつかの問題が一連の関連性をもっているとします。
ここで「糖尿病は食生活の乱れによる病気なので、食生活を見直すべきです」「移動手段がないのであれば、高齢者にタクシー券を配ります」と、単に問題の一つを切り出すだけでは、根本的な解決にはなりません。あるいは、「家族が揃えば高齢者の食生活が乱れないなら、家族全員が揃うようにしよう」という選択ができない事情を抱えた方々も大勢いらっしゃいます。
一つの問題を単純に切り出すのではなく、一連の関連性を保った上で、どのような解決法を見出せるのか。これは、福島県だけが抱える問題ではありません。これから社会が高齢化していく上で、国民全員が通る道です。福島県だけではなく、国民が皆でさまざまな立場から知恵を出し合わなければならないことだと思います。
●ルース・ドフリース(2016)『食糧と人類 飢餓を克服した大増産の文明史』日本経済新聞出版社(中級者向け)
www.amazon.co.jp/dp/B09153LYF7
人類が食べ物、食糧生産を増やしていった文明史、地球の地学、品種改良を含めた農業の発展の様子などを描いた壮大な本です。農作物を増やすのに欠かせない窒素、リンを人類はどの様にして肥料として手に入れていったのか?など様々なエピソードが載っています。現在の日本に住む私達は食べ物を手に入れるのに苦労するという事はあまりないですが、その食材ができる過程には非常に長い時間と歴史、手間がかかっている事が窺い知れる本です。
※殺虫剤であり農薬でもあるDDTの事も書かれていますが、「沈黙の春」で告発されたDDTは鳥類に対して有害である件に関しては他に批判の意見があるので、気になった方は調べてみて下さい。「沈黙の春」の批判は、「禍いの科学 正義が愚行に変わるとき」(著:ポール・A・オフィット)に詳しく書かれています。
本書内の「重大な一歩ー狩猟採集から農耕へ」では、小麦や稲の栽培など農業の起源に関して書かれている部分が興味深かったので、以下引用します。
小麦の親戚にあたる野草を見るかぎり、栽培に向いているようには思えない。食べられる種子の部分は小さく、風で簡単に散ってしまう。これでは大量に収穫するのは難しいだろう。おそらく、遠い昔のその(ヒト科の)人物は風でも飛ばされず茎についたままの種子に目を止めたのだろう。
これは人間にとって貴重な特徴だった。最初は手で、のちには鎌を使って種子を収穫した。風で飛ばない種子を繰り返し集めて植えていくうちに、風に強い種子ができる確率が高まった。他にも、種子が大きい、脱穀でもみがらが簡単に外れる、実る時期が同じなど、人間にとって都合のいい特徴を備えた種子が選ばれた。何千年という歳月をかけてヒトツブ小麦とエンマー小麦は進化して栽培種となったのだ。栽培時期と場所は人間がコントロールし、風まかせではなくなった。
同じような経過をたどって大麦、ヒヨコ豆、レンズ豆、エンドウ豆、亜麻、イチジク、デーツ(ナツメヤシの実)、そしてあまり広くは知られていないベッチ(マメ科ソラマメ属の総称)が栽培されるようになった。
のちに、人間は動物を繁殖させて家畜化し、野生種よりも飼いやすい羊、ヤギ、豚、牛をつくりだした。家畜は人間から与えられる餌で育った。飼い主は世話をし、餌を与え、天敵の脅威から守る代わりに家畜の肉、乳、労働力を利用した。人間が動植物の自然選択の舵を握ったのである。祖先は自分たちに都合よく改良を重ね、動植物をそれぞれ栽培用・家畜用の品種に変えていった。これがけっきょく人間をも変える事になる。狩猟採取していた人びとは農耕と家畜の世話に転じた。これが農業のはじまりである。
●寺薗 淳也(2022)『宇宙開発の不都合な真実』彩図社(中級者向け)
www.amazon.co.jp/dp/4801306209
長年、宇宙開発に携わってきた寺薗淳也先生から見た宇宙開発のどちらかというと影の部分、問題を書いた本です。主に、宇宙開発によって増加した宇宙デブリ(ゴミ)問題や宇宙開発技術は軍事技術と表裏一体である事実、民間の宇宙ビジネスは本当にうまくいっているのか?という問題も含めて、日本と世界各国の現在の情勢を比較、俯瞰して解説されています。宇宙に興味を持っている、また携わりたい人達は、これからの宇宙開発に向けてどのような姿勢を持てばいいのか?という事に関して、寺薗先生は以下このように書かれています。気になった方はぜひ読んでみてください。
軍事、経済、国民感情、国と国との関係、そして技術開発の動向。これからの宇宙開発は、様々な要素が複雑に絡み合いながら進んでいく。国家同士による二項対立というような単純な図式に別れを告げ、他の産業と同じように、様々な要素に翻弄されながら一つの分野として確立していくことになる。
おそらく、この不安定で先が見通せない社会においては、「将来どうなるか」より「将来にどう備えるか」が重要だろう。将来に対して不安ばかりを抱えてオロオロするよりは、リスクを明確にし、それに対してできるだけの策を打つということが重要だ。そして、その明確化と対策実施のサイクルを可能な限りスピードアップしていくことも必要である。
ここまで読まれた方は、リスクの明確化なんてできるのかと思われるかもしれないが、近年は希望も見えてきた。宇宙開発のファンが、着実に増えているのだ。
(中略)
宇宙開発の「中の人」である私のような人間にとって、応援のメッセージは本当に励みになる。「はやぶさ」ミッションにおいて、タッチダウンのようなここぞという場面、あるいは探査機が行方不明になったりエンジンが故障したりといった危うい場面において、「頑張れ」「しっかり応援しています」といったメッセージがどれだけ心強かったことか。リスクが高い宇宙開発において、そのような応援団の存在は貴重であり本当にありがたい。
ありがたいからこそ、1つお願いがある。
ファンから一歩前へ踏み出して、サッカーでいうところのサポーターや、バスケットボールにおけるブースターのような存在になって欲しい。
以前別の著書で書いたことだが、そういったサポーターはすべてを無条件に受け入れたりはしない。だめなことはだめ、よくないことはよくないと主張する。そういった気持ちを持つからこそ、ひいきのチームはより強くなり、ファンの絆は深まる。愛するというのはそういう事ではないだろうか。
私が見る限り、日本でもそのような宇宙開発ファンは少しずつ、着実に増えているように思う。このようなサポーター、ブースターのようなつながりが日本全体に広がっていき、宇宙開発に身を投じている人達を支えるような存在になってくれると、私としてはうれしい限りだ。
2021/5/26サイエンス読書(初心者向け、中級者向け)
今回、サイエンス読書のコーナーでおすすめする本は初心者向け、中級者向け含めて5冊です。ジャンルは医療分野、エネルギー、震災関係などバラバラなのですがご了承ください。

●さーたり・中山哲夫(2020)『感染症とワクチンについて専門家の父に聞いてみた』KADOKAWA(初心者向け)
https://amzn.to/3KKLMhV
外科医であり漫画家、3児の母でもある作者さん、さーたりさんが感染症を専門に研究しているお父様の中山哲夫医師に題名通り、対話を交えて色んな感染症とワクチンなどについて解説する漫画本です。麻疹、風疹、帯状疱疹、結核、ポリオ、破傷風、インフルエンザ、新型コロナ、HPV(ヒトパピローマウィルス)などあらゆる感染症とそのワクチン、各国の政府の対応とワクチンの光と影の部分を詳細に説明しています。漫画形式でかなり読みやすい作りになっています。
本書を読んで「日本はワクチンの信頼度が世界最低レベル」と書かれている事が印象に残りました。本内のセリフを一部引用します。
“人は災害を受けた際に助けに来てくれる人には感謝するが、予め災害が起こらないようにした人には関心を示さない”
「薬やワクチンがどれだけ進化しても変わらないのが人の心だよ。(略)デマや悪口、感染者への差別が、菌やウィルスよりも早く広がる。感染した人は非難を恐れて隠れ、さらに感染は広がる。正しい知識と情報の共有、人や国同士が協力しないとね。」
「ウィルスという見えないものへの不安や恐怖はあるけど『正しく知って正しく恐れる』結局はこれかなって思います。」
●ニコ・ニコルソン(2020)『ナガサレール イエタテール 完全版』太田出版(初心者向け)
https://amzn.to/3H5VUQa
サイエンスとはあまり関係ないエッセイ漫画本なのですが、どうしてもおすすめしたくて紹介しました。東日本大震災で津波の被害を被った作者さんの家族(宮城県山元町在住)と東京に住む作者さんが、実家の家を新築するエッセイ漫画本です。震災の体験談の本ですが、あまりネガティブに描かれておらずコミカルな感じなのでさくさくと読めると思います。ちなみに電子書籍版だとその後の書き下ろし漫画も読めるので、電子書籍版をおすすめします。

●Mervi Holopainen(2014)『フィンランド理科教科書 生物編』( 鈴木 誠、 山川 亜古訳)化学同人(初心者向け)
https://amzn.to/3rRMamh
中学生を対象にしたフィンランドの理科教科書を日本語に翻訳したものになります。前半は日本での生物の教科書とあまり変わらない内容になりますが、後半は主に人体の器官についての解説と、性病、避妊、妊娠を含めた性教育関係の事が書かれています。HPV(子宮頸がん)ワクチン接種の事や避妊の具体的な方法、ヒトの一生、「死」とはどういうものなのか?と言う事も解説しています。中学生対象の本なので、理科が苦手な人にも読みやすいと思います。教科書の内容を一部、引用して紹介します。
9章 生殖 9.2責任あるセックス
・避妊は二人の責任
性行為をすることで、それが初めてのときでさえも、妊娠する可能性がある。避妊に気をつけることは男女どちらにも関係のあることで、性交する前には、避妊に関してあらかじめ話し合わなければならない。なかには、避妊について話題にするのが恥ずかしい、と語る若者もいる。
しかし、この重要なことを相手と話すのが難しいと感じるなら、まずはそのパートナーが十分に親しい存在かどうかを考えた方がよい。避妊に気をつけることは、あなた自身と自分の行為について責任をもつ準備ができている、というはっきりとした意思表示である。自分の行為が及ぼす結果を考慮することは、十分に成熟していると評価されることなのだ。
どんな避妊方法も生物学的な理屈に基づいている。精子の卵細胞への侵入、あるいは卵細胞の排出、または卵細胞の子宮壁への着床を防ぐことで妊娠は避けられる。避妊方法はさまざまで、人によって合う・合わないがある。避妊方法を正しく選択するには、とくに年齢、および個人差や生活環境の違いを考慮しなければならない。
避妊方法に関して、可能な限りたくさんの信頼できる情報を集め、自分の必要性や希望を議論し、できれば学校の保健看護士や医者とも話し合うのが望ましい。
多くの若者にとって、避妊方法に関する最も重要なことがらは、避妊の確実性と性感染症の回避である。
(中略)
「避妊に気をつけることは僕たち男性の仕事でもある。もし彼女が妊娠したら、子どもを産むかどうかは、彼女が自分で決められる。僕らは生活費を18年間払い続けることになり、残りの一生のあいだ、父であることの義務を背負うんだよ。」
11章 11.1 ヒトの一生
・幸福な人生とは
幸福な人生とは何か。その答えは、人それぞれだろう。人生に起伏を求める人もいれば、穏やかな人生を望む人もいる。完ぺきな人生というのはほとんどありえないが、困難や危機は、私たちが精神的に成長できる機会でもある。
どの人の一生も、その人自身のものである。私たちは生きているあいだに、自分ではどうしようもないことがらにたくさん出合う。人生は選択に満ちている。ときに、とても難しい選択もある。より正しい解決方法を見つけるには、選択の助けになるような多くの知識と、己の選択の影響を見通す力、想像力をもちあわせている必要がある。
健康的な生活習慣、何ごとにも積極的な姿勢、親密な人間関係、そして良い友人たちが、人生の苦痛に耐え、人生を意味のあるものにする最良の助けとなる。
自分を大事にしなさい。なぜなら、あなたは、あなた自身の人生にとって、かけがえのない主役なのだから!
●リチャード・ローズ(2019)『エネルギー400年史:薪から石炭、石油、原子力、再生可能エネルギーまで』( 秋山 勝訳)草思社(中級者向け)
https://amzn.to/33LihfC
薪、木材が生活や軍備を支える物資として主に使用されていたシェイクスピアの中世の時代から石炭の利用への変遷、町の明かりである街灯、蒸気機関と鉄道の誕生、石油の発掘やパイプラインの建設、公害の発生、アーク溶接に至るまで現代の電気エネルギーにまつわる歴史を解説した本です。特に産業革命が起きたイギリス、インフラが急速に発達したアメリカの情勢を中心に詳しく書かれています。また現代の原子力災害の例として、福島第一原発、チェルノブイリ、スリーマイル原発事故の事も書かれています。以下、福島第一原発事故、原子力のくだりについて一部引用します。
2011年6月に国際原子力機関(IAEA)に提出された報告書には以下のように記されている。
”2011年5月末に実施された検査では、原子力発電所周辺に居住した195345名に有害な健康への影響は認められなかった。甲状腺被ばくの検査を受けた1080名の児童全員の結果も安全値にとどまっていた。12月、3ヵ所の自治体から避難した住民約1700名に対し、政府が実施した検診では、外部被ばくした住民の2/3が国際基準値の年間1mSvの線量限度内で、98%の住民は年間5mSv 未満、10mSvを超えた住民は10名だった。放射線被ばくによる死者は言うまでもなく、大規模な公衆被ばくがなかった一方で、「震災関連死」による死亡者は761名と報告されている。
とくに強制避難やその他の放射線関連の計測値によって、自宅や病院から引き離された老人に著しい。地元自治体の関係者によれば、自宅への早期帰還に伴う被ばくより、ほとんどの者にとって、避難による心理的な外傷による健康リスクの方が大きかった。”
(中略)
あらゆる技術システムは事故に苦しんできた。その事故は、生身の人間である作業員が事故など起こると想像したこともない、まさにありとあらゆる意表を付く場所で発生し、あたかも底意地の悪い神によって仕組まれたとしか思えない事故である。しかし、巨大な装置を必要とする電力事業において、原子力発電は最も事故の発生件数が少なく、死亡者の数もいちばん少ない。
(中略)
地球温暖化の規模と人類の発展を踏まえ、数世紀に及ぶ長い時間をかけ、供給する全エネルギーの脱炭素化を図るのであれば、風力、太陽光、水力、原子力、天然ガスのすべてが必要である。来るべき地球温暖化の前兆はすでに頭をもたげ、本書の「はじめに」で記したように、イランのバンダレ・マーフシャフルという町では、気温・湿度ともに上昇して、2015年8月には華氏165℃(摂氏74℃)の激しい暑さにあえいだ。ここ数年、中東の気温は華氏125℃(摂氏51.7℃)を超えることが珍しくはない。
最後の第20章、未来への出航 科学とテクノロジーがもたらすものでは、最後にこう書かれています。
「1850年以降、世界の人口が10億人から75億人と7倍以上に増えたのは、もっぱら科学とテクノロジーのおかげで、開発や公衆衛生、栄養状態と医療が改善されたからである。(中略)
過去一世紀、アメリカで命が救われた人々の数は、20世紀の戦争を通じ、人為的な理由で死亡した世界中の死者の数さえ上回っていたのだ。そして、私たちが生きる新しい世紀、新たなミレニアムの始まりであるこの世紀においても、こうした死亡率の改善はいまも続けられ、その範囲を拡大しつつある。
科学とテクノロジーは、人類に破滅をもたらす文明などではなく、むしろそれがもたらす繁栄は、来たるべきこれからの世紀においてもわれわれを支え続けていくだろう。科学とテクノロジーこそ、人類がこれまで考案した体系のなかでも、自らの失敗から一貫して学ぶことができる唯一の制度なのである。」
かなりページ数が多いぶ厚い本でお値段が張りますが理系、文系関わらず読める面白い本だと思います。
●アラン・レヴィノヴィッツ(2020)『さらば健康食神話: フードファディズムの罠』(ナカイサヤカ訳)地人書館(中級者向け)
https://amzn.to/3KL0jdF
食品に関するデマや根拠のない情報について、歴史も混じえつつ詳しく解説された本です。主にグルテンフリー、脂肪、砂糖、塩、スーパーフードについて書かれています。フードファディズムとは、食べものや栄養が健康と病気に与える影響を、熱狂的、あるいは過大に信じること、科学が立証したことに関係なく食べものや栄養が与える影響を過大に評価することです。
読み終わって、ある特定の食物に対して過剰な期待を寄せたり自分達の健康を害する邪悪な食べ物とジャッジする極端な考えがいけないのでは、と思いました。グルテンフリーといった除去食を生活に取り入れることで、致死率が高い拒食症、過食症といった摂食障害に陥る人もいるとの事です。(筆者の方は、高校時代のクラスメイトの女の子の多数があまりにも多く摂食障害になっていたため、この問題に興味をもったそうです)。文章を少し引用します。
「現実には、おそらく医療科学の中で栄養科学ほど難しく複雑なものはありません。この複雑さは私達が何をどのくらい食べるべきかという終わりのない議論を作り出してしまっています。(中略)現在のところ、体重をコントロールする唯一証明された方法は、ほどほどに食べるという事だけです。低脂肪、低炭水化物、低なんとかダイエットを成功させるために共通しているのは、摂取量を減らす事だけです。脂肪なのか炭水化物なのか、どちらをターゲットとするべきかはまだ研究では実証されていません。」
フードファディズムについてもっと詳しく知りたい方は、高橋久仁子先生の『「食べもの神話」の落とし穴 巷にはびこるフードファディズム』の本が分かりやすかったので、理解を深めたい方はこちらもお勧めします。
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B00GHHYNV2/ref=dbs_a_def_rwt_bibl_vppi_i1

●さーたり・中山哲夫(2020)『感染症とワクチンについて専門家の父に聞いてみた』KADOKAWA(初心者向け)
https://amzn.to/3KKLMhV
外科医であり漫画家、3児の母でもある作者さん、さーたりさんが感染症を専門に研究しているお父様の中山哲夫医師に題名通り、対話を交えて色んな感染症とワクチンなどについて解説する漫画本です。麻疹、風疹、帯状疱疹、結核、ポリオ、破傷風、インフルエンザ、新型コロナ、HPV(ヒトパピローマウィルス)などあらゆる感染症とそのワクチン、各国の政府の対応とワクチンの光と影の部分を詳細に説明しています。漫画形式でかなり読みやすい作りになっています。
本書を読んで「日本はワクチンの信頼度が世界最低レベル」と書かれている事が印象に残りました。本内のセリフを一部引用します。
“人は災害を受けた際に助けに来てくれる人には感謝するが、予め災害が起こらないようにした人には関心を示さない”
「薬やワクチンがどれだけ進化しても変わらないのが人の心だよ。(略)デマや悪口、感染者への差別が、菌やウィルスよりも早く広がる。感染した人は非難を恐れて隠れ、さらに感染は広がる。正しい知識と情報の共有、人や国同士が協力しないとね。」
「ウィルスという見えないものへの不安や恐怖はあるけど『正しく知って正しく恐れる』結局はこれかなって思います。」
●ニコ・ニコルソン(2020)『ナガサレール イエタテール 完全版』太田出版(初心者向け)
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サイエンスとはあまり関係ないエッセイ漫画本なのですが、どうしてもおすすめしたくて紹介しました。東日本大震災で津波の被害を被った作者さんの家族(宮城県山元町在住)と東京に住む作者さんが、実家の家を新築するエッセイ漫画本です。震災の体験談の本ですが、あまりネガティブに描かれておらずコミカルな感じなのでさくさくと読めると思います。ちなみに電子書籍版だとその後の書き下ろし漫画も読めるので、電子書籍版をおすすめします。

●Mervi Holopainen(2014)『フィンランド理科教科書 生物編』( 鈴木 誠、 山川 亜古訳)化学同人(初心者向け)
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中学生を対象にしたフィンランドの理科教科書を日本語に翻訳したものになります。前半は日本での生物の教科書とあまり変わらない内容になりますが、後半は主に人体の器官についての解説と、性病、避妊、妊娠を含めた性教育関係の事が書かれています。HPV(子宮頸がん)ワクチン接種の事や避妊の具体的な方法、ヒトの一生、「死」とはどういうものなのか?と言う事も解説しています。中学生対象の本なので、理科が苦手な人にも読みやすいと思います。教科書の内容を一部、引用して紹介します。
9章 生殖 9.2責任あるセックス
・避妊は二人の責任
性行為をすることで、それが初めてのときでさえも、妊娠する可能性がある。避妊に気をつけることは男女どちらにも関係のあることで、性交する前には、避妊に関してあらかじめ話し合わなければならない。なかには、避妊について話題にするのが恥ずかしい、と語る若者もいる。
しかし、この重要なことを相手と話すのが難しいと感じるなら、まずはそのパートナーが十分に親しい存在かどうかを考えた方がよい。避妊に気をつけることは、あなた自身と自分の行為について責任をもつ準備ができている、というはっきりとした意思表示である。自分の行為が及ぼす結果を考慮することは、十分に成熟していると評価されることなのだ。
どんな避妊方法も生物学的な理屈に基づいている。精子の卵細胞への侵入、あるいは卵細胞の排出、または卵細胞の子宮壁への着床を防ぐことで妊娠は避けられる。避妊方法はさまざまで、人によって合う・合わないがある。避妊方法を正しく選択するには、とくに年齢、および個人差や生活環境の違いを考慮しなければならない。
避妊方法に関して、可能な限りたくさんの信頼できる情報を集め、自分の必要性や希望を議論し、できれば学校の保健看護士や医者とも話し合うのが望ましい。
多くの若者にとって、避妊方法に関する最も重要なことがらは、避妊の確実性と性感染症の回避である。
(中略)
「避妊に気をつけることは僕たち男性の仕事でもある。もし彼女が妊娠したら、子どもを産むかどうかは、彼女が自分で決められる。僕らは生活費を18年間払い続けることになり、残りの一生のあいだ、父であることの義務を背負うんだよ。」
11章 11.1 ヒトの一生
・幸福な人生とは
幸福な人生とは何か。その答えは、人それぞれだろう。人生に起伏を求める人もいれば、穏やかな人生を望む人もいる。完ぺきな人生というのはほとんどありえないが、困難や危機は、私たちが精神的に成長できる機会でもある。
どの人の一生も、その人自身のものである。私たちは生きているあいだに、自分ではどうしようもないことがらにたくさん出合う。人生は選択に満ちている。ときに、とても難しい選択もある。より正しい解決方法を見つけるには、選択の助けになるような多くの知識と、己の選択の影響を見通す力、想像力をもちあわせている必要がある。
健康的な生活習慣、何ごとにも積極的な姿勢、親密な人間関係、そして良い友人たちが、人生の苦痛に耐え、人生を意味のあるものにする最良の助けとなる。
自分を大事にしなさい。なぜなら、あなたは、あなた自身の人生にとって、かけがえのない主役なのだから!
●リチャード・ローズ(2019)『エネルギー400年史:薪から石炭、石油、原子力、再生可能エネルギーまで』( 秋山 勝訳)草思社(中級者向け)
https://amzn.to/33LihfC
薪、木材が生活や軍備を支える物資として主に使用されていたシェイクスピアの中世の時代から石炭の利用への変遷、町の明かりである街灯、蒸気機関と鉄道の誕生、石油の発掘やパイプラインの建設、公害の発生、アーク溶接に至るまで現代の電気エネルギーにまつわる歴史を解説した本です。特に産業革命が起きたイギリス、インフラが急速に発達したアメリカの情勢を中心に詳しく書かれています。また現代の原子力災害の例として、福島第一原発、チェルノブイリ、スリーマイル原発事故の事も書かれています。以下、福島第一原発事故、原子力のくだりについて一部引用します。
2011年6月に国際原子力機関(IAEA)に提出された報告書には以下のように記されている。
”2011年5月末に実施された検査では、原子力発電所周辺に居住した195345名に有害な健康への影響は認められなかった。甲状腺被ばくの検査を受けた1080名の児童全員の結果も安全値にとどまっていた。12月、3ヵ所の自治体から避難した住民約1700名に対し、政府が実施した検診では、外部被ばくした住民の2/3が国際基準値の年間1mSvの線量限度内で、98%の住民は年間5mSv 未満、10mSvを超えた住民は10名だった。放射線被ばくによる死者は言うまでもなく、大規模な公衆被ばくがなかった一方で、「震災関連死」による死亡者は761名と報告されている。
とくに強制避難やその他の放射線関連の計測値によって、自宅や病院から引き離された老人に著しい。地元自治体の関係者によれば、自宅への早期帰還に伴う被ばくより、ほとんどの者にとって、避難による心理的な外傷による健康リスクの方が大きかった。”
(中略)
あらゆる技術システムは事故に苦しんできた。その事故は、生身の人間である作業員が事故など起こると想像したこともない、まさにありとあらゆる意表を付く場所で発生し、あたかも底意地の悪い神によって仕組まれたとしか思えない事故である。しかし、巨大な装置を必要とする電力事業において、原子力発電は最も事故の発生件数が少なく、死亡者の数もいちばん少ない。
(中略)
地球温暖化の規模と人類の発展を踏まえ、数世紀に及ぶ長い時間をかけ、供給する全エネルギーの脱炭素化を図るのであれば、風力、太陽光、水力、原子力、天然ガスのすべてが必要である。来るべき地球温暖化の前兆はすでに頭をもたげ、本書の「はじめに」で記したように、イランのバンダレ・マーフシャフルという町では、気温・湿度ともに上昇して、2015年8月には華氏165℃(摂氏74℃)の激しい暑さにあえいだ。ここ数年、中東の気温は華氏125℃(摂氏51.7℃)を超えることが珍しくはない。
最後の第20章、未来への出航 科学とテクノロジーがもたらすものでは、最後にこう書かれています。
「1850年以降、世界の人口が10億人から75億人と7倍以上に増えたのは、もっぱら科学とテクノロジーのおかげで、開発や公衆衛生、栄養状態と医療が改善されたからである。(中略)
過去一世紀、アメリカで命が救われた人々の数は、20世紀の戦争を通じ、人為的な理由で死亡した世界中の死者の数さえ上回っていたのだ。そして、私たちが生きる新しい世紀、新たなミレニアムの始まりであるこの世紀においても、こうした死亡率の改善はいまも続けられ、その範囲を拡大しつつある。
科学とテクノロジーは、人類に破滅をもたらす文明などではなく、むしろそれがもたらす繁栄は、来たるべきこれからの世紀においてもわれわれを支え続けていくだろう。科学とテクノロジーこそ、人類がこれまで考案した体系のなかでも、自らの失敗から一貫して学ぶことができる唯一の制度なのである。」
かなりページ数が多いぶ厚い本でお値段が張りますが理系、文系関わらず読める面白い本だと思います。
●アラン・レヴィノヴィッツ(2020)『さらば健康食神話: フードファディズムの罠』(ナカイサヤカ訳)地人書館(中級者向け)
https://amzn.to/3KL0jdF
食品に関するデマや根拠のない情報について、歴史も混じえつつ詳しく解説された本です。主にグルテンフリー、脂肪、砂糖、塩、スーパーフードについて書かれています。フードファディズムとは、食べものや栄養が健康と病気に与える影響を、熱狂的、あるいは過大に信じること、科学が立証したことに関係なく食べものや栄養が与える影響を過大に評価することです。
読み終わって、ある特定の食物に対して過剰な期待を寄せたり自分達の健康を害する邪悪な食べ物とジャッジする極端な考えがいけないのでは、と思いました。グルテンフリーといった除去食を生活に取り入れることで、致死率が高い拒食症、過食症といった摂食障害に陥る人もいるとの事です。(筆者の方は、高校時代のクラスメイトの女の子の多数があまりにも多く摂食障害になっていたため、この問題に興味をもったそうです)。文章を少し引用します。
「現実には、おそらく医療科学の中で栄養科学ほど難しく複雑なものはありません。この複雑さは私達が何をどのくらい食べるべきかという終わりのない議論を作り出してしまっています。(中略)現在のところ、体重をコントロールする唯一証明された方法は、ほどほどに食べるという事だけです。低脂肪、低炭水化物、低なんとかダイエットを成功させるために共通しているのは、摂取量を減らす事だけです。脂肪なのか炭水化物なのか、どちらをターゲットとするべきかはまだ研究では実証されていません。」
フードファディズムについてもっと詳しく知りたい方は、高橋久仁子先生の『「食べもの神話」の落とし穴 巷にはびこるフードファディズム』の本が分かりやすかったので、理解を深めたい方はこちらもお勧めします。
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B00GHHYNV2/ref=dbs_a_def_rwt_bibl_vppi_i1
『からころ』『福島第一原発と地域の未来の先に…』(初心者向け)
今回は医療情報を分かりやすく扱ったフリーマガジン『からころ』と福島第一原発の今と昔を解説する『福島第一原発と地域の未来の先に…』の本、2つを紹介したいと思います。

からころさんは主に医療施設の病院、薬局で置かれている事が多いですが、過去のバックナンバーは公式サイトで記事を読むことができます。
・配布施設
http://karacoro.net/facility/
・過去の記事(バックナンバー)
http://karacoro.net/backnumber/
雑誌内の記事、『よくわかる医療最前線』では小児白血病の最新治療、すい臓の病気の最新治療などを取り上げてやさしく解説しています。その他の記事では、発達障害の事も解説しています。雑誌の最後の方に掲載している『からころ通信』では、患者さんの闘病記の体験や精神科病院で訪問看護に従事していた宮子あずささんからのアドバイスも見る事ができます。医療の専門知識がない方でも分かりやすく読めるフリーマガジンなので、気になった方は一度公式サイトをご覧下さい。
http://karacoro.net/

『福島第一原発と地域の未来の先に…~わたしたちが育てていく未来~』は福島第一原発と一般の人々をつなぐ活動をしている一般社団法人AFWさんが出している冊子です。冊子内の文章を書いているのはAFW代表理事をしている吉川彰浩さんです。以前に吉川さん主導で福島第一原発の視察を行った記録を掲載したブログ記事もあるので、興味ある方はよければご覧下さい。
http://inakafe.blog.fc2.com/blog-entry-58.html
http://inakafe.blog.fc2.com/blog-entry-53.html
また、この冊子を購入したい方はAFWさんで自家通販を行っているので、こちらのサイトをお読みの上お願いします↓
http://a-f-w.org/report/info/3754/
以下、冊子の内容を要約して掲載します。
『現在の福島第一原発がある場所は昔は小さな集落があり、第二次世界大戦中では特攻隊を育成する帝国陸軍の飛行場(磐城飛行場)に使われていました。今でもその歴史を伝える石碑が敷地内に残されています。この場所は断崖絶壁で隔てられ、海と山に挟まれた地形であったため、漁業と農業が発展する事ができませんでした。家族を養うために東京に出稼ぎへ行く人が多かったため「東北のチベット」とも呼ばれていました。
時代の変遷と共にエネルギーの中心も、木炭から石炭、石炭から石油、石油から原子力へと移り変わってゆきます。北茨城市~いわき市~双葉郡富岡町まで広がった常磐炭田などの炭鉱も閉山されました。戦後の高度経済成長期、第一次オイルショックなどの様々な要因により日本で電子力発電所を作る動きが起き、議論の末双葉郡大熊町と双葉町にまたがる形で福島第一原子力発電所が作られていく事になりました。
福島第一原発の一番古い1号機は1971年から発電を始め、この場所で作られた電気は関東・首都圏へすべて送られていました。電気は東北で使われることはなく、遠く離れた地域でたくさんの人の暮らしや生活を支えてゆきます。そして大切なことはこの電気は間違いなく誰かの役に立っていたということです。
福島第一原子力発電所が電気を安全に作り続けて行くためには、沢山の人の協力が必要でした。発電に必要な機器を点検する人、食堂を切り盛りする人、発電所をテロから守るために警備をする人など多岐にわたります。数千人の人が常に大切な役割を持っています。東京電力という会社の社員だけで成り立つ場所ではありません。この地域でたくさんの雇用を生み出しましたが、同時に、地域の人によって支えられていた場所でもありました。
この場所で働く人たちのほとんどは、何十年と発電の仕事を続ける中で、地域や町の中で一緒に暮らす関係になってゆきます。発電所の敷地内には働きやすい職場や、体育館や運動場、野球場やテニスコートが作られ、スポーツを通した交流も盛んに行われました。発電所内で働く人たちが運営し、お店を出す「ふれあい祭り」というイベントが発電所で毎年開かれていました。地域の人達や発電所で働く人達の家族が訪れ、小さな子供達にとっても楽しみの一つになっていました。地域から見ると、この場所は首都圏に電気を送る場所というよりも、家族を養うために働く場所であり、地域発展の中心の場所でもありました。』
この後は震災、原発事故の混迷やその当時の状況の説明が詳しく書かれています。
『福島第一原発で働く人達は電気を作るための仕事をしてゆきました。これからは、放射線を出すゴミを片付けながら事故処理を同時並行で行う「廃炉作業」へと変わっていきます。未知の領域です。培った技術や知識に加えて、新しい知識、技術が必要になります。長く続く廃炉作業、そこで働く人達が専門職として働けるように「廃炉のプロ」への育成が始まっています。
万全の対策が必要な場所はまだ残っていますが、普通の格好でいられる、もしくは軽装の放射線防護対策でいられるエリアを増やしていきました。今でも、発電所構内の一部では普通の服装でマスクもいらない場所もでき、敷地全体では約96%のエリアで軽装でいられるようになりました。
放射線被ばくに対する環境が良くなっていく中、労働環境の整備も進められ、新しくオフィス・休憩所が建てられ、食堂・コンビニなども作られています。この場所ではマスクもいりません。作業中の怪我に対応するための救急施設や緊急時のドクターヘリ用のヘリポートが作られるなど、安心して働ける環境が整ってきました。
そういった働きやすさが増す一方で、事故で始まった廃炉作業ゆえに、中には誇りとやりがいが持ちにくい状況の人達がいます。「事故は起きない」という約束を破ったという、罪の意識が残り続けているからです。廃炉作業は何十年もかかるからこそ、福島を、地域を良くしていきたいと新しく加わる人達もどんどん増えていきます。廃炉を進める事で、地域や原発を、安全で信頼できる場所に変えていける人達だからこそ、誇りとやりがいを持って働いていける環境を作って行かなくてはなりません。』
『福島第一原子力発電所と地域のこれからは、バトンの渡し方を模索し続ける姿そのものです。誰もが次の世代へ渡すバトンを持っています。渡し方が見つからなく迷ってしまう時はきっとあります。そんな時にこの場所の歴史に触れてみてください。あなたにとっての大切な人生の学びが、見つかりますように。』

からころさんは主に医療施設の病院、薬局で置かれている事が多いですが、過去のバックナンバーは公式サイトで記事を読むことができます。
・配布施設
http://karacoro.net/facility/
・過去の記事(バックナンバー)
http://karacoro.net/backnumber/
雑誌内の記事、『よくわかる医療最前線』では小児白血病の最新治療、すい臓の病気の最新治療などを取り上げてやさしく解説しています。その他の記事では、発達障害の事も解説しています。雑誌の最後の方に掲載している『からころ通信』では、患者さんの闘病記の体験や精神科病院で訪問看護に従事していた宮子あずささんからのアドバイスも見る事ができます。医療の専門知識がない方でも分かりやすく読めるフリーマガジンなので、気になった方は一度公式サイトをご覧下さい。
http://karacoro.net/

『福島第一原発と地域の未来の先に…~わたしたちが育てていく未来~』は福島第一原発と一般の人々をつなぐ活動をしている一般社団法人AFWさんが出している冊子です。冊子内の文章を書いているのはAFW代表理事をしている吉川彰浩さんです。以前に吉川さん主導で福島第一原発の視察を行った記録を掲載したブログ記事もあるので、興味ある方はよければご覧下さい。
http://inakafe.blog.fc2.com/blog-entry-58.html
http://inakafe.blog.fc2.com/blog-entry-53.html
また、この冊子を購入したい方はAFWさんで自家通販を行っているので、こちらのサイトをお読みの上お願いします↓
http://a-f-w.org/report/info/3754/
以下、冊子の内容を要約して掲載します。
『現在の福島第一原発がある場所は昔は小さな集落があり、第二次世界大戦中では特攻隊を育成する帝国陸軍の飛行場(磐城飛行場)に使われていました。今でもその歴史を伝える石碑が敷地内に残されています。この場所は断崖絶壁で隔てられ、海と山に挟まれた地形であったため、漁業と農業が発展する事ができませんでした。家族を養うために東京に出稼ぎへ行く人が多かったため「東北のチベット」とも呼ばれていました。
時代の変遷と共にエネルギーの中心も、木炭から石炭、石炭から石油、石油から原子力へと移り変わってゆきます。北茨城市~いわき市~双葉郡富岡町まで広がった常磐炭田などの炭鉱も閉山されました。戦後の高度経済成長期、第一次オイルショックなどの様々な要因により日本で電子力発電所を作る動きが起き、議論の末双葉郡大熊町と双葉町にまたがる形で福島第一原子力発電所が作られていく事になりました。
福島第一原発の一番古い1号機は1971年から発電を始め、この場所で作られた電気は関東・首都圏へすべて送られていました。電気は東北で使われることはなく、遠く離れた地域でたくさんの人の暮らしや生活を支えてゆきます。そして大切なことはこの電気は間違いなく誰かの役に立っていたということです。
福島第一原子力発電所が電気を安全に作り続けて行くためには、沢山の人の協力が必要でした。発電に必要な機器を点検する人、食堂を切り盛りする人、発電所をテロから守るために警備をする人など多岐にわたります。数千人の人が常に大切な役割を持っています。東京電力という会社の社員だけで成り立つ場所ではありません。この地域でたくさんの雇用を生み出しましたが、同時に、地域の人によって支えられていた場所でもありました。
この場所で働く人たちのほとんどは、何十年と発電の仕事を続ける中で、地域や町の中で一緒に暮らす関係になってゆきます。発電所の敷地内には働きやすい職場や、体育館や運動場、野球場やテニスコートが作られ、スポーツを通した交流も盛んに行われました。発電所内で働く人たちが運営し、お店を出す「ふれあい祭り」というイベントが発電所で毎年開かれていました。地域の人達や発電所で働く人達の家族が訪れ、小さな子供達にとっても楽しみの一つになっていました。地域から見ると、この場所は首都圏に電気を送る場所というよりも、家族を養うために働く場所であり、地域発展の中心の場所でもありました。』
この後は震災、原発事故の混迷やその当時の状況の説明が詳しく書かれています。
『福島第一原発で働く人達は電気を作るための仕事をしてゆきました。これからは、放射線を出すゴミを片付けながら事故処理を同時並行で行う「廃炉作業」へと変わっていきます。未知の領域です。培った技術や知識に加えて、新しい知識、技術が必要になります。長く続く廃炉作業、そこで働く人達が専門職として働けるように「廃炉のプロ」への育成が始まっています。
万全の対策が必要な場所はまだ残っていますが、普通の格好でいられる、もしくは軽装の放射線防護対策でいられるエリアを増やしていきました。今でも、発電所構内の一部では普通の服装でマスクもいらない場所もでき、敷地全体では約96%のエリアで軽装でいられるようになりました。
放射線被ばくに対する環境が良くなっていく中、労働環境の整備も進められ、新しくオフィス・休憩所が建てられ、食堂・コンビニなども作られています。この場所ではマスクもいりません。作業中の怪我に対応するための救急施設や緊急時のドクターヘリ用のヘリポートが作られるなど、安心して働ける環境が整ってきました。
そういった働きやすさが増す一方で、事故で始まった廃炉作業ゆえに、中には誇りとやりがいが持ちにくい状況の人達がいます。「事故は起きない」という約束を破ったという、罪の意識が残り続けているからです。廃炉作業は何十年もかかるからこそ、福島を、地域を良くしていきたいと新しく加わる人達もどんどん増えていきます。廃炉を進める事で、地域や原発を、安全で信頼できる場所に変えていける人達だからこそ、誇りとやりがいを持って働いていける環境を作って行かなくてはなりません。』
『福島第一原子力発電所と地域のこれからは、バトンの渡し方を模索し続ける姿そのものです。誰もが次の世代へ渡すバトンを持っています。渡し方が見つからなく迷ってしまう時はきっとあります。そんな時にこの場所の歴史に触れてみてください。あなたにとっての大切な人生の学びが、見つかりますように。』